急性大動脈解離のDダイマー再上昇
急性大動脈解離(AAD)の経過中にDダイマーが再上昇した患者さんがおられました。
AADではDダイマーが上昇し、診断にも有用です。そのカットオフ値は500μg/mlです(Circulation.2009;119:2702–2707.)。経過とともに低下していきますが、再上昇したときに何を考えればいいでしょうか?まず第一に再解離・解離の進展を疑わねばなりません。そして忘れてはならないのが深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症の合併です。
AADでは安静臥床、解離腔の血栓化過程での凝固系亢進といった、DVTができやすい環境がそろっています。私自身もAADのフォローアップ中に施行した、造影CTでたまたま肺塞栓症が発見された症例を何度か経験しています。保存的加療をおこなったAAD(typeB)の自然歴に関する報告によると、肺塞栓症は1.6%に認められたとのことです(Circulation. 2006;114:I-384–I-389.)。
Joらによると、AAD(typeB)30例中17例(57%)で、入院中にDダイマー再上昇を認め、これらのうち再解離を3例に、DVTを4例にそれぞれ認めたとのことでした(Jo Y et al. Heart Vessels. 2010 Nov;25(6):509-14.)。再上昇を認めなかった13例では、再解離もDVTも一例も認めませんでした。やはり、再解離とDVTは要チェックです。ただし、どちらも認められなかった例が11例(Dダイマー再上昇例の65%)とのことなので、原因が良くわからないものも多いようです。
ついでに、FDPとDダイマーの違いを整理しておきます。Dダイマーはフィブリンの分解産物ですので、凝固と線溶いずれも亢進しているときに上昇します。FDP(fibrin/fibrinogen degradation products)はフィブリノーゲン、フィブリン両方の分解産物です。したがって、凝固系の亢進なしに、線溶系のみが亢進している場合には、Dダイマーは上昇せず、FDPのみが上昇する(FDPとDダイマーの乖離)のです。線溶亢進型DIC(急性前骨髄球性白血病・腹部大動脈瘤・転移性前立腺癌など)が該当します。