What's up? Cardiology

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし

弘法筆を選ばず 弘法以外はカテを選ぶべし

LCXへのPCI予定患者さんの治療方法を検討する際に、主治医がガイディングカテはQ curveを選択というので、私が「Q curveよりCLSかVLの方がいいんじゃない?」とコメントする場面がありました。

 

弘法筆を選ばず」という言葉があります。

私たちは弘法大師ではないので,筆を選ぶべきであるというお話です。

PCIを行うにはガイディングカテーテル,ガイドワイヤー,バルーン,ステント,血管内イメージング(IVUS, OCT)など様々な道具を使用します.最初に悩むのが,ガイディングカテーテルの選択です。形状,サイズいろいろありますが「弘法」はどんな血管であっても,どんなカテーテルを使っても上手に手技を行うことができますが,そうでなければある程度は,目的や相手の血管に応じて選択すべきだと思います。ガイディングカテの選び方について,あちらこちらにまとめてありますのでご参照ください。以下の2つ(Q curveCLS)は比較的当院で選択される機会が多いカテだと思いますが、皆さんはどのように選択されているでしょうか?メーカーのHPには下記のように記載されています。(私たちはIkariカテもよく使いますがその話はまた後日あらためて)

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Boston Scientific社HPより

Q curveは全体がなだらかなカーブでできているため、固いデバイスを通過させやすいことと、先端がLAD方向に向きやすいという点が特徴です。ただ、先端全体が屈曲しているため反対側の大動脈壁でのバックアップは少し弱いです。また、カテを押していくと先端がどんどん上を向いて壁に向かってしまう点も要注意です。
一方、CLS(contra lateral support)やVL(Voda left),EBU(extra back-up),SS(special support)などのいわゆる「long-tipガイディングカテーテル」(Cathet Cardiovasc Diagn. 1992 Nov;27(3):234-42.) は反対側の大動脈壁で強力なバックアップ(passive back-upといいます)が得られます。先端はまっすぐなので、LCX方向に向きやすく、LADとLCXの分岐角度が大きい場合は、LAD方向へのガイドワイヤー選択が困難な場合があります。

PCIの手技を行う場合に、カテ先端の方向と血管の方向が同じ軸の上にある、同軸性というのは重要です。以下の症例を見てみましょう。

図1左は診断カテのJL4.0がうまく(同軸性を保ちながら)左冠動脈にエンゲージできている様子です。図1右は同一症例のPCI時のものですが、ガイディングカテーテル(Q-curve 3.5)はうまく同軸に入っていません。(カテを引くと同軸になるのですが、すぐに外れてしまうため、ガイドワイヤーを入れた状態で造影しています。)

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図2左Q-curveがうまくLAD方向(赤矢印を向いて入っている様子です。図2右は同一患者さんにCLS3.5を使用した時のものです。CLSLCX方向(赤矢印を向いているのが良くわかります。

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図3Q curve 3.5が全く同軸に左冠動脈に入らなかった例です。この場合は、ガイディングの形状の問題というよりもサイズが小さすぎるのです。

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One-size-fits-allという言葉があります。日本語でいえば「フリーサイズ」に相当します。ガイディングカテの第一選択サイズはQ-curveが4, CLSが3.5などと言われていますが、アプローチ方法や体格、大動脈径などによりけりで、なかなか"one-size-fits-all"というわけにはいきません。