隠れタコツボ
CCUやICUには様々な重症患者さんが入院されます。原因がよくわからないうっ血、溢水状態になってる患者さんに心エコー図を行うと、ちょっと心機能が落ちているかな?でもCKが上昇していないから、まあいいか。と見過ごしてしまうことがあります。
実はそのなかに、タコツボ心筋症(最近はタコツボ症候群:TTSと呼ばれます)が潜んでいることがあります。
TTSの診断には、心エコー図(Echocardiographic assessment of takotsubo cardiomyopathy: beyond apical ballooning. J Echocardiogr. 2016 Mar;14(1):13-20.)が重要な役割を演じますが、予期していないとその存在自体を見逃します。
以前の私たちの検討で、CCUに入室した413例の心エコー図を見直してみると、11例のTTSが隠れていました。
Case9は下壁梗塞にTTSによる心尖部壁運動異常を合併していた例ですが、急性期には(私も含めて)誰も心尖部の壁運動異常に気づいていませんでした!
TTSは自然回復して予後良好。とは昔の話で、今や急性冠症候群と同様の急性期予後(院内死亡率4-5%)です。心破裂、重症心不全、左室内血栓から脳塞栓、左室流出路狭窄や僧帽弁逆流、致死性心室性不整脈など、様々な合併症がおきるので、「タコツボを合併している」ことを認識して治療にあたることが重要です。
右室壁運動異常(biventricular Takotsuboといいます)を合併することもあります。
MRIによる検討では34%で右室にも壁運動異常があったとのことです。
Biventricular Takotsuboの予後は特に不良です(Kagiyama N, Okura H et al. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2016 Feb;17(2):210-6., Citro R et al.JACC Cardiovasc Imaging. 2016 Jul;9(7):894-895., Finocchiaro G, Kobayashi Y, J Card Fail. 2015 May;21(5):419-425.)。
さて、先ほど、下壁梗塞患者の心尖部壁運動異常に誰も気づかなかったと書きました。そんなことってあるんでしょうか?
この有名な動画(約1分)で、白チームが何回パスしたかを数えてみてください。
人は「自分が見ようとしたもの、見えると予期したもの」以外は容易に見落としてしまうのです。