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大動脈瘤の血圧コントロール:理想と現実

動脈瘤の術後患者さんをたまたま別の理由で診療する際に、「ええ!血圧150台?β遮断薬未使用!?」と驚くことがあります。

 

今日は、大動脈瘤の血圧コントロールの理想と現実についてです。

理想と現実の写真

 

2020 年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインでは、胸部大動脈瘤の内科治療として、血圧値 130/80 mmHg 未満を目標として血圧管理を行う(Class I, LOE C)と書いてあります。使用する薬剤としてはβ遮断薬が第一選択です。目標血圧はそんなもんでいいの?と思ったら、本文中には、「TAAでの降圧目標は,収縮期血圧105~120 mmHgが望ましいとされるが,低血圧になるリスクを考慮すると現実的には130/80 mmHg未満が妥当と考えられる.」と記載してあります。

高血圧治療ガイドライン2019ではどうでしょうか?胸部大動脈瘤については、やはり収縮期血圧を105-120 mmHgに維持することが望まれる。とあります。

理想:105-120 mmHg

現実:130/80 mmHg未満

腹部大動脈瘤はというと、2020 年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインでは収縮期血圧 130/80 mmHg 未満を目標とした厳格な血圧管理を行う(Class I, LOE C)とありますが、本文を読むと、エビデンスはないので胸部大動脈瘤に準じただけなのだということがわかります。β遮断薬についてはプロプラノロールを用いたRCTでAAAの拡大速度を低下できなかったことから、あまり強く推奨されていません。そもそも、普段プロプラノロールは使わないのですが。

高血圧ガイドラインでも「厳格な降圧療法及びβ遮断薬の効果についての確立されたエビデンスはない」との記述のみです。

理想:β遮断薬で血圧をしっかり下げたら進展抑制できるはず

現実:エビデンスなし

では術後の血圧管理についてはどうなんでしょう?ほとんどデータがありません。

唯一、見つけた論文「Effect of Beta Blockers on Mortality After Open Repair of Abdominal Aortic Aneurysm(Ann Surg. 2018 Jun;267(6):1185-1190. )」ではAAAの開腹術の周術期にβ遮断薬を投与していたほうが術後の生存率が高そうだ。とう内容でした。術後も継続したほうが良いのか、血圧や脈拍のコントロールとの関係はどうなのかはわかっていません。

 

動脈瘤ならば術前でも術後でも、β遮断薬を使用して血圧をしっかり下げるべきと信じていたので、その根拠が乏しいことに驚かされました。