忘れられたリウマチ性MS (Forgotten Rheumatic Mitral Stenosis)
刑事コロンボというドラマが好きでした。そのなかに「忘れられたスターFORGOTTEN LADY」というお気に入りのエピソードがあります。
昔,一世を風靡していたのに、今やすっかり忘れられてしまった元スター女優の悲しい物語です。
本日は、かつてのスター弁膜症、リウマチ性僧帽弁狭窄症(MS)の話です。
最近は、リウマチ性MSを見かける機会がめっきり少なくなりました。どうやら若い先生たちにとっては過去の病気でなじみの薄いものになってしまっているようです。
「慢性心不全」という病名の患者さんが心不全の悪化により入院されました。心エコー図をみると、リウマチ性MSです。しかし驚くことに、これまでの病名、プロブレムリストにはどこにも、MSという記載がなかったのです。
心エコー図のレポートを確認すると、MS(mild)と書いてありました。
僧帽弁逆流 (MR)がmildであれば、わざわざMRとプロブレムリストに書く必要はないのですが、MSは違います。
弁膜症の中でMSだけは「軽症」であっても外科治療の対象になりうるからなのです。
2020 年改訂版弁膜症治療のガイドラインを見てみましょう。
MRについては
図6:重症一次性 MR の手術適応
表題のごとく「重症」のみが手術対象です。
図10: 左室収縮機能低下に伴う二次性 MR の手術適応
では、「重症」と「中等症」が対象になっています。
MSはどうでしょう?
図 12:MS における外科手術 /PTMC の適応
には、軽症MS(MVA>1.5)であっても、症状があり、運動負荷試験でmPG≧15 mmHgまたはPASP≧60 mmHgであれば、外科手術またはPTMCの適応(クラスIIb)と記載されているのです。
MSは軽症でも手術適応(たいていはPTMCです)の場合があるのです。
当然のことながら、MSが少なくなれば、PTMCも少なくなります。
医局員のほとんどがPTMCを見たことがなかったそうです。心臓外科の若い先生たちも同様のようです。
実際のPTMCの様子です(術者はバルーンの開発者、井上寛治先生です)。昔は右房造影ガイド下で心房中隔穿刺していましたが、今は体腔内エコーガイドが一般的です。
「忘れられたスター」と違って、リウマチ性MSは忘れてしまうにはちょっと早いですね。
というわけで、忘れられたリウマチ性MSの物語でした。