BNPが高くない心不全 Heart Failure with Preserved BNP?
BNPが正常値であるにもかかわらず、右心カテーテル検査で肺動脈楔入圧が高値であった、肥満の心不全患者さんがおられました。
心不全学会はステートメント「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」で、BNP, NT-Pro BNPのカットオフ値を記載しています。BNP100, NT-Pro BNP 400です。
ステートメントの本文中に以下のような記述があることをご存知でしょうか?
「ただし、BNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合(収縮性心膜炎、僧帽弁狭窄症、発作的に生じる不整脈、一部の虚血性心疾患、高度肥満などを伴う心不全)もあるので、症状や症候を十分に加味して判断して下さい。」と記載されています。
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)にも、「軽度の心不全患者や高度肥満を有する心不全患者などではこの値を下回ることもある.したがってBNP 35~40 pg/mLあるいはNTproBNP 125 pg/mL以上の値を認め,症状,既往・患者背景,身体所見,心電図や胸部X線などから心不全の可能性が強く疑われる場合も,心エコー法を行うことは妥当である.」
と記載されています。BNPが高くない心不全 Heart Failure with Preserved BNP?とでも呼べばよいのでしょうか?
肥満例で,BNPが低値となる理由は諸説ありますが、脂肪組織で分解されるとの説が有力です。
折しも,新しい心不全治療薬エンレスト(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物錠)が発売になりました。本薬剤はANP, BNP分解酵素のネプリライシン阻害薬とAT1受容体阻害薬からなるもので,内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解を阻害して,その作用を高める作用があります。肥満例のように内因性BNPが低い心不全に対して果たしてどの程度の効果があるのか,注目しています。