What's up? Cardiology

勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし

自己免疫性胃炎(AIG)とPPI関連胃症(GAP)

先日,川崎医科大学特任教授の春間賢先生のご講演を拝聴する機会がありました.その際に教えていただいたのが「胃炎の京都分類」です.

春間先生ご自身が監修されたものです.。そのなかで、特に自己免疫性胃炎(A型胃炎)について,詳しく解説していただきました。

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日経メディカルより引用。)

春間先生らの最近の症例報告がこちらです。

胃炎にはA型とB型があり、A型は抗胃壁細胞抗体(PCA)陽性の胃炎で別名自己免疫性胃炎(AIG:autoimmune gastritis)、B型胃炎はPCA陰性の胃炎です。

AIG内視鏡では胃体部に高度萎縮があるが,前庭部には萎縮を認めない,逆萎縮パターンの胃炎を呈します。(ピロリ菌Helicobacter pylori)による慢性胃炎では、炎症が前庭部から胃体部にかけて広がり、全体的に萎縮が見られる。

それに伴い,無酸症高ガストリン血症を呈し,悪性貧血とともに,胃癌NET(neuroendocrine tumor)の発生母地として知られています。抗壁細胞抗体抗内因子抗体がその発生に関与することが知られており,他の自己免疫疾患との関連が報告されています(春間賢ほか.日内会誌106;2188-95, 2017)。

原因の良くわからない大球性貧血を時に経験します。そのなかに、AIGが隠れているのかもしれません。

泥沼ピロリ除菌という言葉もはじめて知りました。AIGで胃酸が少ないと、ピロリ菌以外のウレアーゼ産生菌が定着してしまい、除菌をしても尿素呼気試験を行うと陽性反応が出てしまい、除菌が繰り返されるというものです。

 もう一つ、気になったのはプロトンポンプ阻害薬(PPI)による病変です。京都分類ではPPI関連胃症と記載されています。PPIの長期投与により胃底腺ポリープや過形成ポリープ、さらには多発白色隆起(春間・川口病変)や敷石状胃粘膜、黒点等の変化を来すことがわかってきたそうです。Gastiritis associated with PPI (GAP)という名称を春間先生が名づけられたそうです。私たち循環器内科医は、アスピリンとともに日常的にPPIを長期処方していますので、その病的意義が気になるところです。

 最後に、

熊本大学循環器内科の辻田教授の論文「Upper gastrointestinal bleeding in Japanese patients with ischemic heart disease receiving vonoprazan or a proton pump inhibitor with multiple antithrombotic agents: A nationwide database study」が紹介されていました。虚血性心疾患患者の上部消化管出血予防に、ボノプラザンは従来のPPIと比較して非劣勢という内容でした。

 今回も「循環器内科医の知らない世界」でした。

 

 

胃炎の京都分類

【目次】
第1章 胃炎分類の歴史

第2章 胃炎の内視鏡所見
1. 総論
H. pylori未感染胃粘膜=正常胃/現感染胃粘膜=慢性活動性胃炎/既感染胃粘膜(除菌後あるいは高度萎縮による菌の自然消失)=慢性非活動性胃炎/薬剤による胃粘膜の変化
2. 「胃炎の京都分類」所見の解説
萎縮/腸上皮化生/びまん性発赤/点状発赤/粘膜腫脹/皺襞腫大,蛇行/鳥肌/腺窩上皮過形成性ポリープ/黄色腫/陥凹型びらん/ RAC/胃底腺ポリープ/稜線状発赤/隆起型びらん/ヘマチン/体部びらん/斑状発赤/地図状発赤/多発性白色扁平隆起
3. 「胃炎の京都分類」所見の解説(その2)
敷石状粘膜/偽ポリープ/黒点霜降り状
4. H.pylori関連以外の胃炎の所見
自己免疫性胃炎(A型胃炎)PPI関連胃症PPI関連胃症の病理学的所見/NSAIDs潰瘍/好酸球性胃炎/Helicobacter suis胃炎/感染性の胃炎(結核、CMV、梅毒等)/ IBDに伴う胃炎/寄生虫アニサキス)による胃炎/急性胃炎(H.pyloriの急性感染)

第3章 胃癌リスクを考慮した内視鏡所見スコア
胃癌と背景胃炎の関係/胃癌リスクに関連する内視鏡所見/胃癌リスクの内視鏡所見スコア

第4章 胃炎内視鏡所見の記載方法
解説ならびに症例/内視鏡的背景胃粘膜チェック表/病理診断と一致する慢性胃炎(背景胃粘膜)の内視鏡診断・分類・記載法

第5章 診断に苦慮する症例